“本質的な価値を発掘する仕事”企業と顧客のマッチングをデザインする
埼玉のあったかい会社、記念すべき第1号記事は、埼玉県さいたま市大宮区に事務所を構えるWEB制作会社「ティラノ・クリエイティブ・アーツ株式会社」さんです。埼玉のあったかい会社の発起人でもある代表取締役・岡田さんにインタビューをさせていただきました。
創業時期、創業したきっかけなどを教えてください。
2016年9月に「SimilDesign」という屋号で開業届を出しました。創業のきっかけをお話すると、僕は以前、新宿にあるWebマーケティングの会社で10年近く働いていて、次のキャリアを模索していたんです。
そのとき僕は係長で、新卒や部下を教育したり、マネジメントすることが多くなっていました。それまでは、自分の成長=モチベーションだったのですが、立場が変わるにつれ、実践の中でスキルを伸ばし成長を感じる、という機会が少なくなっていったんです。そして、モチベーションを維持できなくなってしまって。
それが1〜2年続いたとき、だんだん自分が何をしたいのかわからなくなってきて、「何のために自分は働いているのだろう」と、自分の働く意義に自問自答するようになったのです。
そんなときに、サイボウズの社長、青野さん著書「チームのことだけ考えた。」という本をたまたま読んだのです。2015年の当時ですから、リモートワークなんてほとんど導入されていない時代。サイボウズではその時から、リモートワークを活用し、いろんな環境の人が、いろんな時間、スタイルで働いていたのです。
社内で、面と向かってコミュニケーションが取れない状態で、どうやって一人ひとりのモチベーションを上げ、同じ方向を向いて働けるのか。成果を出し続けることができるのか。
その理由のひとつに、「社長が働く理由や会社の存在意義・理念を日頃からしっかり掲げること」そして、それを「社員一人ひとりが腹落ちし理解すること」そうすることで、バラバラな環境や働き方でも、同じ方向を見て成果を出し続けることができる。というようなことが書かれていました。(当時の記憶を辿って話してますので、少しニュアンスが違っていたらすいません)
いわゆる企業が掲げる”ミッション”の重大さを問うていたのです。そして、自分にはそれがないと、気づかされたんです。働く理由というのが僕には明確にない。それに気づいたとき、頭にカミナリが落ちた気がしました。バリバリバリと雷鳴です。
働く理由って、家族のため、給料のため…とかはもちろんあると思います。当時、私も子どもが生まれ、父親になったばかりでしたから、余計です。しかし、仕事をするうえで、使命感に燃えるような、もっとワクワクするような、胸アツになれるような、そんないても立ってもいられないような明確な働く理由が自分にはなかったのです。このまま同じ環境で、もんもんとしていて、いいのかなと思い始めました。
当時、社長にも相談しました。社長自身はすごくクールでアツいものを語ってくれました。でも、末端の社員にはその想いが届いてなくて、経営層と社員の途中で、ぽっかり断層があるように感じました。社長はアツい人だけど、また同じ場所で働き続けたら、同じことが繰り返されるのではなかろうか。
もっと実感を持って働ける会社に転職するか、独立して自分自身がそういう想いで働くのか、という2択になったのです。でも、転職活動をしても、あまり共感できるような会社がなく、最終的に「自分でやるべきだ」と決意しました。
Web制作やブランディング、ビジョン策定事業において、どんなことを大事にしていますか。
共通して言えるのは「仕事の価値を再定義したい」というところですね。Web制作というと請負仕事というイメージがあるかもしれませんが、僕は請負仕事だけだとは思っていません。
デザインやプログラミングを発注していただく、それ以前にもっともっと大切なことがあります。それは、「商品や事業のコンセプトがきちんと明確化されていて、社内で共通認識になっているか」。そして、「社員の働く意義や仕事の価値が、社内の共通認識になっているのか」。ここを、Web制作に入る前に、しっかりと深掘りをさせていただきます。
もしかしたら、社長が思う「商品や事業の価値」や、「会社で働くことの意義」が、社員と認識が違ってしまっていて、バラバラになっているかもしれません。
いざ、Web制作をはじめるとき、そこに1本の筋が通っていないと、社内で「なぜWebをつくり、何を成し遂げたいのか」が、バラバラになってしまうんです。せっかく作ったのに、あとから社長が取り替えたくなったり、社員が営業に使えなかったりと、本来の効果を発揮することができなくなる。だから、Web制作には全メンバーが腹落ちした、一貫した商品や事業のコンセプトが必要だと思っているのです。
営業マンがお客さんのところへ行って商品の価値を説明するときに、人によってバラバラだったり。そもそも、共通認識になるWebサイトも機能していないので、営業資料やターゲットになる顧客層もバラバラ、ということもよくあります。そうならないように、まずはじめに社長、社員みんなで「一貫した働く価値」を考え、明文化しておく。ということを大事にしています。
そこで改めて、僕らの仕事ってこういう意味があったんだ、こういう価値があったんだ、ということに気づく。そんな瞬間が、この仕事をしていてよかったなと思う瞬間です。そこに弊社ティラノの価値が集約されているというか。仕事を再定義して、自分たちで「いい仕事をしているんだ」と気づいてもらったうえで、Webサイトをつくるということを大事にしています。
「働く意義を再定義して、全員の認識を揃える」のが大切というところですが、それはやっぱり、独立する前のご自分の経験が根底にあるんでしょうか?
そうですね、みんな目の前の仕事に没頭していて、「何のために、この作業をしているのか」を、理解していないからモチベーションが下がってしまったり、足並みがバラバラになってしまうと思うんですね。もっと目的を持って仕事に取り組めば、もしかしたらもっと楽しく働けたりとか、もっとこうした方がいいみたいなアイデアが出てきたりとか、発展的な動きが出てくるんじゃないかと思うんですよね。それがないと寂しいというか、そういうのを変えたいという想いがありました。
目的なくみんなバラバラだったら、なんかもったいないですよね。互いに協力できたらもっと楽しめるのに、つまらないですよね。
楽しくないですよね。ロールプレイングゲームをずっと何度も繰り返していくような感じで。はじめはレベル上げとかも、楽しかったかもしれないですけど。
これまで出会ったお客様とは、どのような価値観・関係性を築き、どんな反響をいただけていますか。
下請け業務みたいな関係がもともと嫌だというのがあって、制作会社や広告代理店の下請けは、ほとんどやっていません。クライアントになる社長と同じ目線で、対等な関係性を築くようにしています。
今まで関わったお客さんの中には、毎月社内報を郵送してくださる社長もいたり、大事な記念パーティーに呼んでもらえたりもあります。年2回くらいのペースで、かならず会社の懇親会に呼んでくださる会社さんもいます。
その後もつきあいがあるっていいですね。
会うとすごく尊重してくれたり、お陰さんでって言ってくれる人が多いですね。もちろん、Webサイトをつくるのにもいろいろ目的があると思うんですけど、成果をきっちりコミットした上での関係性になります。会えば「お客さん増えたよー」っていう感想をいただけるので。とっても嬉しくなりますね。
あと、Webサイト公開後のサポートや運用保守など、毎月月額でいただいてるものは、ほとんど解約はなく95%以上継続いただいています。
お客さんと、よい関係性を築くうえで、意識していることはありますか?
弊社が楽して儲かるとか、弊社都合の提案はしていません。お客さんにとって100%いい方法を、まっとうに提案できているかを意識しています。それが信頼に繋がっているのかなと思います。
もちろん、ベストな方法を提案していますから、それなりに費用が高くなる提案もあります。それで、単純に「高い」と言われて、内容を変え値段を落とせば、契約できる案件もあるかもしれません。しかし、お客さんにとってそれはベストではないので、「なら、うちでそれはやりません」と正直に言います。だって、いくら安くできても、成果が出なければ、何の意味もありませんからね。
これまで携わった案件で苦労したこと、失敗したこと等があれば教えてください。
弊社ティラノがやっている仕事のスタンスとか業務の内容を理解されないまま、やりとりが始まってしまうと、ストレスがかかることが多いですね。Webのデザインだけ綺麗にしたいとか、古くさいからとりあえず新しくしたいとか、見栄えだけ変える価値はどこまで意味があるのかなというのがあって。
僕らは表面的な見栄えだけではなく、根本的にWebサイトや伝えるメッセージを見直して、もっと成果が上がるサイトを提供したいと思っています。
全体の占める割合の中でデザインの効果というは一部で、それ以外にコンテンツやサイト自体の設計、そしてコンセプトなど、総合的に合わさって成果につながってきます。
デザインだけ変えても、はっきりいって成果には直結しない…。という話を散々したうえで、それでも「デザインだけ変えればいいんだよね」とか「アニメーションをつけて競合と差別化したい」とか、全然理解されないお客さんもいます。「あんまり意味ないんだけどな」と思ったまま仕事を進めることになるので、それは、できればやりたくない。と思っています。
ティラノのWebサイトに、「できること」と「苦手なこと」を記載しているのが斬新だなと思ったのですが、それによってお客さんとのミスマッチを防げるということはあるのでしょうか?
Webサイトにありのままを書いたほうが、理解してくださった質のいいお客さんが来るので、「ありのままを書く」というのを意識しています。フリーランスの方のブランディングをしたときに「好きなお客さんは?」と聞くと、「うーん」って言うんですけど「嫌なお客さんは?」と聞くと、色々と出てくるんですよね。そういう嫌なお客さんが来ないようなつくり方、というのも意識しています。
ただ、フリーランスの方や小規模の会社にはそれは有効なのですが、中堅企業クラスやBtoBの企業では、また色が変わってくることがあるので、使い分ける必要はあります。でも、基本的にミスマッチはなくしたいですね。ミスマッチほど悲しいことはないので。
本当にそうですよね。そこから間違っているというか、無理が発生している気がします..
なんでうちに来ちゃったの?みたいなことが世の中に溢れていますよね。
ー(笑)ブランディングに力を入れるというのが画期的だなと思ったので、もっといろんな会社がやればいいのになと思います。
現在の事業を通じて、企業やそのお客様にどのような未来を描いて欲しいと思いますか。
世の中のミスマッチがなくなったらいいな、という想いが大きいですね。僕も個人事業主で独立したとき、ミスマッチなお客さんに出会うと大変だったので。だれでもいいから、とにかく来てねというよりかは、会社側も来てほしいお客さんを明確にして、それがいいと思うお客さんが、会社の商品を買ったり使ったりするのが、いちばん理想的だと思います。
企業があれもできます、これもできますと言って、それに魅力を感じたお客さんが行ったら、全然違うじゃんみたいな。言ってることと、やってることが違うというのは、お客さんにとっては悲劇。それがクレームにつながると思うんですよ。
お客さんは、Webサイトとか事前の情報を見て、その会社に期待して行ってみる。しかし、実際は期待通りではない。逆に、会社のほうもWebサイトではそういうことを書いているけど、実際は別のところを強みにしていて、別の部分で喜んでほしい、みたいなチグハグになっていることがあるんです。会社ががんばりたいと思っていることと、お客さんが求めていることがズレていても、ミスマッチが起きてしまうんですよね。
そういうことが世の中にいっぱいある。それがなくなると、みんなが求めているものを、お互い喜んで供給できて、きれいな関係を築けると思うのです。そうすると、仕事でいがみ合ったりとか、「お客様は神様です」なんて言いたくないとか、ギクシャクした関係がなくなって、お互いに優しくなれるんじゃないかなと思っています。
岡田さんは関係性づくりやコミュニケーションで大切にしていることはありますか
昔いた会社では、部下を怒るというマネジメントが主流だったんです。怒る練習しろと言われるくらい。部下がヘマしたときに、喝を入れて身を正すみたいな風潮がどうしても、僕には合わなかったんです。新卒の子に「なんで岡田さんは怒らないんですか?」と言われる始末。だけど、うまく答えられなくて。なんでって、単純に怒るの嫌だからっていう(笑)。怒るとか、怒りという感情からは何も生まれないというか、それなしでも会社とか組織をつくれるようにしたいなとは思うんです。
そもそも争いがあまり好きじゃないし、討論になっても口が上手いわけでもないから、土俵に上がらないようにしたいというか。お客さんとのミーティングやワークでも、楽しい雰囲気づくりは心がけています。緊張している若手の子がいても、発言しやすいように意識してます。楽しい雰囲気のほうがよりいい発言が出ますし、新しいアイデアも生まれやすいと思います。
岡田さんにとって新しいこと=大きなことをやりたいという感じですか?
大きなことはできていません。できる範囲でやってる感じです。できる範囲でコツコツやっています。
わたしはまだ会社員マインドなので、自分で事業をはじめるのは、すごくハードルが高いように感じてしまって..スキル面も大きいかもしれないですけど。
確かに、怖いことは考えちゃいますよね。僕も独立当時は、お客さんとWEBサイトのサポートや保守の契約をするとき、正直不安でした。この先何年も契約し続けられるのかな?来年には俺、消えちゃうんじゃないかって。
でも、自分の中の殻をこじ開けていくと、その怖さが、自分にとっての当たり前になっていくんです。それの繰り返しで、少しづつ怖かったことが、怖くなくなって、気づくと自分自身の環境を変えることができる。
会社員から独立するときも、恐怖ばっかりでした。でもすでに独立した人たちと話すようになると、それが当たり前になっていきました。
貴社で働くことで身に付くことは何ですか?
お客さんの課題に向き合い、解決する力が身に付くと思います。なぜ、弊社ティラノに問い合わせいただいたのか、WEBサイトを立ち上げたり、リニューアルすることで、本当に解決したいことは何か?そういうところから、ヒアリングしたり、ディスカッションやワークをして、根本的なところから見つめ直すことを大切にしています。
繰り返しになりますが、きれいなデザインにしたい、とか、こういう機能をつけたい、とか、表面的な要望をそのまま聞き入れてしまうと、根本的な部分がずれていたり、こちらも、「なんでこんなことするんだろう」「意味ないのにな」と、思いながら、仕事をすることになるので、だれもしあわせになりません。
「この仕事は何のためにやるのか?」という、本質的な問いを当たり前にお客さんにできる人になると思います。
どんな人が貴社の仕事や社風にあってると思いますか?
小さい会社ですので、綺麗に役割分担や、フローが確立しているわけではありません。デザイナーだけど、提案資料をつくるし。コーダーだけど、ディレクションに入ることもある。
僕が20代半ばで「Webデザイナー」として就職した会社では、ほとんどPhotoshopは開かず、ひたすらメルマガや広告のキャッチコピーを書いていました。書いては先輩ライターに添削してもらい、その繰り返し。また、ある日は、日々出稿する広告を決めるため広告代理店と1日3社も4社も打ち合わせ。いろんな職種のいろんな業務をこなしてきました。自分も、むしろみんなも「私がWebデザイナー」ということをすっかり忘れていました。
だけど、その経験がいまに活かされています。いろんな職種の人と関わって、実際にいろんな職種を経験して、仕事や組織を俯瞰して見れるようになりました。いろんなクリエイターさんや関わる会社の痛みや悩み、喜びを知ることができました。こうした自分の経験や経緯を、押し付けるわけでないですが、いろんな職種やいろんな経験、いろんな人と関わってほしいと思っています。
そして、お金というのは、お客さんの悩みを解決して、感謝されることで報酬が生まれます。その悩みが深ければ、深いほど課題解決は難しく、そして報酬は上がります。深い悩みを解決できるスキルをしっかり身につけていただければ嬉しいです。
自分のスキルを磨くことに喜びを感じるのも大切ですが、目の前のお客さんの悩みを解決して、感動できるレベルになってほしいなあと。そんな人が、ティラノ・クリエイティブ・アーツ株式会社に合っていると思っています。
編集後記
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。インタビュー・記事を執筆させていただいた、小山です。今回社長さんにインタビューをするのは初めてでしたので最初は緊張しましたが、岡田さんの話に共感しまくりで、ときには泣きそうになりながらも、あっという間に2時間も話し込んでしまいました。
「この仕事は何のためにやるのか?」そして「本当にやるべきことは何なのか?」この質問に答えられる人は、そう多くはいないかもしれません。そこをしっかり納得した上で仕事ができれば、よりいいものを生み出すことができ、イキイキと生きられる人が増えるのではないか、と思います。
この”仕事そのもの”を見直すという考え方が広まって、より多くの人が、もっと楽しく仕事ができる社会になったらいいなと心から願っています。